味 竹林(あじ たけばやし)
住所:福岡市中央区大手門1-3-3電話:092-712-1051
営業時間:12:00~15:00(13:30 O.S.)
18:00~22:00(20:30 O.S.)
店休日:日祝日
福岡を訪れる旅行者は、この地の魅力は“食にあり”と口をそろえて言う。地元の人間もそんな評価を耳にして、満足そうにうなづく。おいしい店なら星の数ほど。そんな福岡で、すでに20年以上。老舗という枕詞が似合う日本料理店がある。
福岡市大手門の住宅街に佇む、「味 竹林(あじたけばやし)」。
創業は平成5年。「Jリーグが開幕した年って覚えておいてください」と、この店を営む大将の竹林さん。今でこそ、飲食店がちらほら存在するこのエリアだが、店を開店した当初はとてもひっそりとしていたそうだ。
「土地勘はあったものの、大手門で創業するとは、怖いもの知らずだったんでしょうね」と大将は笑う。開店は、大阪の名店「味 吉兆」で12年間務めたのちのことだった。
福岡生まれ、百道育ちの大将。地元に戻ってきてやはり「福岡はいい食材が多いなあと思いましたよ」。特に魚は絶品。「かます、さわらと、地元で揚がった魚がやっぱりおいしい。鮮度が違いますね」という。
いつもにこやか、ほがらかな大将だが、大阪修行時代はとにかく気が抜けなかったとか。「でもね、気が入っていない料理はなんだか蝋(ろう)細工みたいなんですよね。調理して配する作業だけだと、給食になっちゃうというのかな。表現するのは難しいのだけれど、いい料理には気が入ってますよ」。
この日、カウンターに腰を落ち着けたオロジオ・木村社長に「まずはどうぞ」と出してくれたのは、冷たいビール、かますのひと塩とつるむらさきの小鉢。そして、黄色い小皿には、これぞ大人の味という、いちじくのふろふき。
続いては、お造りと炊き合わせ。定番でいて、目を奪われるというのが、気の入った料理の証なのだろうか。
カウンターの中で調理をされるのは大将おひとり。
お造りのために、柳刃が光る包丁が何本も出てくる。その手元を眺めているだけでも、贅沢な時間が過ぎていく。
また、「味 竹林」は、おせちの素晴らしさでも知られるという、一面がある。
約1ヶ月前から仕込みをはじめ、クリスマスイブをラストスパートの合図につくりあげるおせちは、開業2年目から休まず続けてる。木村社長も「もう、大将のおせちじゃなきゃダメだ」というほどのお気に入り。
ひとつひとつ手作りした30品以上が、お重にきっちり美しく詰められている。毎年500食(個数で約200程度)、多くの人の手を借りて作られるのだが、すべてのお重を最後に整えるのは大将の役目。小さな枠で区切らずに詰め込んだおせちは、お重のふたを開けた瞬間、新年、顔を合わせた家族をおいしさで笑顔にするチカラがある。
大将が大切にしているお吸い物「ぼたん鱧(はも)」。骨切りした鱧が、ぼたんの花のようにお椀のなかでふわふわ開く、目にも美しい一杯だ。
きれいですねえとため息をつく我々に、「鱧の骨切りはプロの料理人にとっては難しくないんですよ。私にはゴルフのバンカーショットのほうが、よっぽど難しい」とチャーミングなひとこと。「味 竹林」らしいひとこまだ。
ご存知の方も多いと思うが、「味 竹林」は、ミシュランガイド福岡・佐賀版で一つ星を獲得した店。世界基準のガイドブックで予習となると敷居が高く感じられるかもしれない。しかし、身構える必要がまったくないのも、この店らしさ。仕事をする大将と向き合うカウンターも、やわらかな空気に満ちている。
木村社長も手を休めた大将とおしゃべりをしてリラックス。ゆるやかにおいしい時間が過ぎていく。
大将が冗談まじりに言うのは「私、高田純次さんが好きなんですよね」。
一見、適当のように見えるが(失礼!)、たとえば年下の相手でも緊張させない、むしろ緊張をほぐしてくれるような優しさを感じていらっしゃるのだろうか。
「味 竹林」もまた然り。名店と評する人はいても、緊張するという人はいない。むしろ「大将のおかげでゆっくり過ごせた」「あのお人柄に惹かれるんだよねえ」という言葉をよく耳にするし、木村社長もそんなひとりである。
「若い頃は、やるべき仕事をすべてきっちり終わらせなければ、お客様の前に料理を出すことなんてできないと思っていました。でも今は、お客さまの顔を拝見して『お腹をすかせてらっしゃるんだな』と感じたら、手順よりも料理をお出しするタイミングを優先することもあります」。
味わいはもちろんのこと、大将が作り出すそんな間合いも、客たちにとってご馳走だ。
「ランチには20代の女性も来てくださるし、おいしいからって夜にも通ってくれるようになった時はうれしですよね」と大将。木村社長も「居酒屋料理もいいけれど、たまにはちゃんと手をほどこされた本物の和食を、若いみなさんにも食べてほしいなあ。これぞ日本文化ですからね。海外の人にもきちんと和食を紹介できたら、いいんじゃないかな」。そんな話をしながら、いよいよラストを飾る、ごはんの時間に。
たまご焼き、牛肉の白ワイン煮、ちりめん山椒。そして、この白いごはんがまた特別だ。
実は、夜はもちろん、ランチの松花堂弁当の時でさえ、それぞれの客のタイミングに合わせて炊きたてを出してくれる。「普通に炊飯器で炊くだけです」と大将はおっしゃるが、ほかほかのおいしさにファン多数。ひと手間、いやふた手間以上かかっても炊きたてを食べて欲しいという気持ちに、素直に感謝したくなる。
ちなみに、ごはんの炊きあがりは、予約の時間に合わせているそう。おいしいごはんにありつきたいなら、遅刻は厳禁だ。