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自然派という生き方でおいしくなる-クロマニヨン-

GOURMET|2015.4.30 Photography:Satoru Hirayama
Text:Satomi Nishimura

静かに熱い、大手門へ出かけよう

福岡市のシンボルである大濠公園にほど近く、このまちの季節の移り変わりが手にとるように分かる大手門界隈。ほどよい生活感もあり、歴史が深いこのまちを気に入って集まるのは、個々のやりたいことを探求している店(とその店主たち)だ。飲食店でもアパレルショップでも、敷居は高くないのによくよく話を聞けば、とんでもないこだわりを持っている。芯のある店が多い。

「クロマニヨン」店主である市村大輔さん・仁美さん夫妻も大手門“らしさ”を備える。

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2011年、「このまちの暮らしが根づいている、ウソっぽくないところが好きなんです」と、雰囲気のある古ビルの1階でワインダイニングをオープン。梅雨入り直前のことだった。

「早春のひと皿は、緑と土色だけで充分なのです」

「クロマニヨン」で楽しめるのは、市村夫妻がよりすぐった自然派の料理とワインだ。
シェフの大輔さんが担当する料理は「できる限り、車で30分程度の場所で育った食材で、つくるようにしています」。たとえば「野菜のお皿」というメニューには、糸島市で自然農・不耕起栽培(畑をあえて耕さない栽培法)に取り組む農園の野菜を選んでいる。

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生のまま、蒸したものと調理法は違えど、その生命力はお皿からあふれんばかり。甘いものは甘く、苦いものはしっかり苦い。野菜おのおのの個性が鮮烈に飛び込んでくる。油断していた味覚が揺さぶられて、もっと食べたい!と要求してくる。

春先だった取材時、「野菜のお皿」は葉物と芋類がメインだった。緑と土色。畑そのままの色合いは素朴であるが、大輔さんはあえてここに赤や黄色を添えようとはしない。その時の福岡で採れた野菜が、葉物と芋類ならそれでいいじゃない、という考えだ。

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例えば、福岡で3月に食すそら豆は、ありがたい“初もの”で賑々しい気分になれる。でもそれには、南九州でハウス栽培されたものという側面もある。「いろんな食の楽しみ方があると思いますし、農家さんの努力もすごい。ただ『クロマニヨン』では、人工的に作り出された1カ月先の旬よりも、近所で採れたその時の旬をお出ししようかな、と」と大輔さん。

地産地消や身土不二を、提唱することは特にない。お客さんを見渡しても、気持ちいいくらいによく食べ、よく飲み、よく話す。カジュアルでピースフルな雰囲気だ。「僕らは、自然のリズムに沿って生きたいだけなんです。『クロマニヨン』という箱で、できることからぼちぼち始めています」。

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その取り組み方は、マイペースであくまで自然。一方、人気だったレバーのパテを「もっと素材だけでシンプルに調理したくて」、レバーとピーナッツバターを別々に出し、食す人の口の中でパテになるというスタイルに変更した。

「自然派ワインの『自然派』という言葉にも、ルールや基準はないですしね。自然派と認められる『作り手の生き方』があればそれでいいんです」という大輔さんの言葉が耳に残る。

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自然派という“人となり”を、楽しみながら、重ねながら

オープン当初、それまで大輔さんがフレンチの現場にいたこともあり、「ビストロらしい料理とはこうだ」という固定概念を持っていたという。そんな市村夫妻が変わったのは、“自然派ワインの神様”と言われるピエール・オヴェルノアさんに会いにいってからだ。

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フランスで料理人をしている友人から「新しい友達を紹介するよ」と言われ、それがピエールさんだと知った時、「僕らが大好きなワインの作り手じゃないか!」と大興奮。「今が会える唯一のチャンスかもしれない。すべてのピースが揃ったね!」とばかりにフランスのジュラ県に飛んだ。オープンして1年目のことだったが、そのタイミングを大切にした。

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ピエールさんのワイナリーで見た仕事ぶりはもちろん、その暮らしぶりのすべてが“自然派”だったと市川夫妻はいう。みんなでごはんを食べる時も「テーブルには花が飾ってあった方がいいね。ちょっと野原で摘んでこようよ」と年配の男性たちが真剣に話し合っているそうだ。

自然のままに、そこにあるものを生かし、今できる最高のものをていねいにつくっていく。ピエールさんは、その生き方、人となりこそが、自然派なのだと気づかせてくれた。帰国後、大輔さんの料理も、福岡の風土が感じられるものへと変化していく。言ってみれば福岡の現代の「郷土料理」なのかもしれない。

ぶどう畑の風景をボトルに絞り込んだようなワイン

ピエールさん作の貴重な白ワインのコルクを抜き、グラスに注いでくれる仁美さん。自然派ワインのおいしさやその背景を大輔さんに伝えた人でもある。「ピエールさんたちは自然と会話ができるそう。耳をすませばぶどうが今何をしてほしいのか、声が聞こえてくるんですって」と楽しそうに教えてくれる。

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口に含んだワインは、力強いのに澄みきった味わいで、ジュラ県の大地にしっかりと根を張ったぶどう畑が目の前に浮かんできた。自然の摂理にそって育ったぶどうに、少しだけ、そしてていねいに人間が手助けをする。見たことのないワイナリーの日々の営みまでが、頭の中に広がる。

また、ピエールさんという存在を今はじめて知ったのに、ご本人に会ってみたくなる。どんな仕事ぶりで、どう暮らしているのか、知りたくなる。まさに自然派が“人となり”を表す言葉であることを、思い知らせてくれるワインだった。

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「グラスの向こう側が、見えてくるような味だよね」と、オロジオの木村社長夫妻も感動している。「日本にも、ピエールさんと同じような考えを持ち、自然派ワインに取り組んでいる方もいるんですよ。次はこちらを飲んでみます?」と、今度はメイド・イン・山梨の自然派赤ワインのボトルを抜栓してくれる仁美さん。作り手との親交を深め、その考え方を理解し、共有できる瞬間がたまらなくうれしい。

人へ、食へ、素材へ、そして自然への思い。自然派という言葉で表現されるものの根底には、自然と一体化した大きな大きな「愛」が横たわっている。

さらに深まる「クロマニヨン」の世界が気になる

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ワインにしても、食材にしても、今後さらに生産者のみなさんのもとに足を運び、微生物から人間まで、丸ごと包みこむ自然の素晴らしさに触れてみたいという市村夫妻。生産地では、第六感までフルに稼働させて、自然がつむぐ「愛」の数々を感じ取っている。

「農家さんはカレンダーを見て『何月何日になったら種を捲く』ということはしないんです。梅が咲いたらこの作業をしよう、桜が咲いたらあの作業をしようと考えています。花はカレンダーではなく、温かい空気やお日さまの陽射しを感じて咲くでしょう。農業も料理も、結局はそれと一緒なんですよね」。

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暑くなれば身体を冷やすトマトがメニューにお目見えする。寒くなれば身体を温める根菜類のレシピが増える。「でも、暑いからトマトを仕入れるわけじゃないんです。ちょうど暑くなりはじめる頃、トマトは旬を迎え、僕らのところにやってくるんです」。それが自然とともにある料理だ。

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問いかければ様々な答えを返してくれる市村夫妻は、その感性も表現の仕方も、裏打ちする知識も豊か。今回も営業時間中には決して聞けない、深い内容を語ってくれた。また、夫妻が大好きな食材を販売するグロッサリー「サークル」もオープンし、今後もさまざまなイベントを提案したいという。農家を訪問する、カジュアル農業体験もいつかやってみたいと計画中だ。

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「だって、僕らはクロマニヨンですから」と大輔さん。人類として初めて感性をもったクロマニヨン人のごとく、これからもさらに進化し、さらに深まる自然派の世界観。私たちに余すところなく届け、伝えてくれることだろう。

最後に、この日いただいたお料理をご紹介。
木村社長がほれ込む、阿蘇の赤牛のグリル。とうもろこしなどの飼料は与えず、草だけを食べて育つ。草食動物本来の餌だけで育ったためか、ミルクが香るようなすこやかな味。

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加工肉も自家製だ。手作りをするのに、どれだけの技術と労力と時間がかかるのかを聞くだけで、ワインが何倍飲めることか、想像がふくらんでしまう。

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information

Cro-magnon クロマニヨン
住所:福岡市中央区大手門1-9-31 1F奥
電話:092-406-7487
営業時間:18:00~24:00
店休日:月曜定休

クロマニヨン
http://www.wine-cro.jp/
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